題名で損している/山本ケンイチ『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』

仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)

仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)

いま体を鍛えるビジネスマンが急増中。経営者や金融マン、クリエイターなど、常に成果を求められる人ほど、トレーニングに時間とお金を投資している。筋肉を鍛え維持することは、もはや英語やITにも匹敵するビジネススキルなのだ。本書では「直感力・集中力が高まる」「精神がタフになる」など、筋トレがメンタル面に大きな変化をもたらすメカニズムを解説。続けるための工夫、効果を高める食事・睡眠、ジムの活用法など、独自のノウハウも満載した画期的トレーニング論。

読む前の内容予想

「仕事ができるデキリーマンはすべからく筋トレしている!なぜなら、筋トレにはビジネススキルをアップさせる○○なパワーがあるのだ!
 仕事のできないそこの君も、筋トレさえすれば、デキリーマンの仲間入り!」

読後の感想

マーケティングのためのタイトルづけが、大きく失敗している例。


ミーハーな自己啓発本のようなタイトルでありながら、非常に実直で、哲学的でさえある内容。著者のトレーニングにかける思いと知識の深さがにじみ出ています。


著者の主張は以下のようなものです。

お金で買えたり、短時間で結果が出るものがもてはやされる時代にあって、鍛えた肉体はその場で手に入れられるものではない。コンビニなどに置いてある雑誌で歌われているように、「このトレーニングをすれば1週間で筋肉がつく」などということはありえない。短絡的なことばかりがもてはやされる現代において、筋トレは、数少ない短絡的ではないものだ。
筋トレにおいて大切なことはむしろ、「プロセスの重要性、粛々と努力を積み重ねることの重大さに気づく」こと。そしてそれは、ビジネスにおいて、困難な課題を乗り越えて成果をあげるための方法論と同様である。だからこそ、「仕事ができる人は、トレーニングをやっても優秀である」


ただ、「ビジネス」という視点は本の中ではいくぶん後ろに追いやられ、「筋トレは積み重ねていくことで成果がでるもの」であり、だからこそ「継続していくこと」が大切だと懇々と説かれています。そのために、モチベーションをどう保つか、やめたいという欲望からどう逃れるのか、という方法論を展開しています。その意味で、習慣づけの方法論としても読める本です。


多分「ビジネス」という視点を押し出したのは、編集者なのだろうと予想しています。「こんな地味な内容じゃ売れないですよ。そうだ、山本さんのクライアントってビジネスパーソンが多いんですよね?筋トレとビジネスを結び付ける、これで行きましょう!」という編集者の考えが透けて見えます。


しかし、非常にいい意味でタイトルと内容が異なっているので、「お手軽にデキリーマンになりたい」という読者層には内容で離れられてしまうし、実直にトレーニングをしたい層にはそもそも手にとってもらえないし、と、マーケティングを意識しすぎて勿体ないことになっている本です。